応急仮設住宅は7市町18団地368戸が全戸着工済みで、入居は9月に本格化する。住まいが変われば通勤経路が変わり、通勤経路が変われば通勤手当が変わる。そして通勤手当が変われば、非課税限度額の当てはめと源泉徴収の処理が変わる。この記事は、入居の連絡が入ってから支給額を決めるまでの手順を、人事総務と給与担当が迷わないように整理したものである。経路の届出と通勤災害の扱いは記事076で扱ったので、ここでは手当の額と課税の側に絞る。
9月に何が起きるか
入居は団地ごと・世帯ごとに決まるため、同じ事業場のなかで日付がばらける。8月末に決まる人もいれば、10月に回る人もいる。そして距離は、伸びる人と縮む人の両方が出る。自宅が全壊して遠方の親族宅に身を寄せていた人が、勤務先に近い団地に入れば距離は縮む。逆に、被災した自宅から歩けた人が離れた団地に移れば伸びる。
つまりこれは「一斉に改定する」性質の事務ではない。個別に、届出を起点に、随時処理する事務である。9月の給与計算は、月次で一括処理する前提を一度外しておいたほうがよい。
非課税限度額をどう当てはめるか
通勤手当は、一定額まで所得税がかからない。電車・バス通勤の場合、最も経済的かつ合理的な経路・方法による運賃や定期券の額が1か月あたり15万円を超えるときは、15万円が非課税の限度となる。
マイカー・自転車など交通用具を使う場合は、片道の通勤距離に応じて月額の限度額が決まっている(国税庁タックスアンサーNo.2585)。
| 片道の通勤距離 | 1か月あたりの限度額 |
|---|---|
| 2km未満 | 全額課税 |
| 2km以上10km未満 | 4,200円 |
| 10km以上15km未満 | 7,300円 |
| 15km以上25km未満 | 13,500円 |
| 25km以上35km未満 | 19,700円 |
| 35km以上45km未満 | 25,900円 |
| 45km以上55km未満 | 32,300円 |
| 55km以上65km未満 | 38,700円 |
| 65km以上75km未満 | 45,700円 |
| 75km以上85km未満 | 52,700円 |
| 85km以上95km未満 | 59,600円 |
| 95km以上 | 66,400円 |
駐車場を使う場合は上表の額に駐車場料金相当額(上限5,000円)を加えた額、有料道路を使う場合は上表の額に合理的な料金額を加えた額が限度となり、いずれも最高限度は月15万円である。限度額を超えて支給した部分は給与として課税される。
今回の被災地では、この表の当てはめで実務が動くところが3つある。第一に、代行バスや迂回で経路が長くなっても、それが「最も経済的かつ合理的な経路」であれば、その経路で判断できる。第二に、鉄道が止まっている区間を車で通う人は、電車基準ではなく交通用具の距離区分で当てはめることになる。第三に、九州新幹線が9月18日に再開見込みとなったことで、10月以降に経路が再び変わる人が出る。9月の改定は「もう一度動く」前提で記録しておきたい。
応急住宅特有の3つの論点
住民票を移さないことがある。 応急住宅への入居は一時的な措置であり、住民票を移さない人が少なくない。通勤手当は実際に通勤している住所を基準に判断するのが原則であり、住民票の所在地とは一致しないことがある。社内規程が「住民票の住所」を基準に書かれている場合、被災期間中の取扱いを補足しておかないと、実態と支給が食い違う。
世帯が分かれることがある。 本人が応急住宅に入り、家族が別の場所に残る例がある。この場合、どちらから通勤しているかで判断する。本人が週の大半を過ごす場所を基準にするのが実務的だが、社内で基準を決め、文書にしておく。
入居期間に定めがある。 応急住宅は原則として期限のある供与であり、退去後にまた経路が変わる。今回の改定を恒久的な変更として処理せず、「災害に伴う暫定」であることを台帳に残しておくと、次の改定のときに履歴を追える。
いつから変えるか、過払いをどうするか
支給の起算日は、社内規程に定める届出日か、実際の入居日か、そのどちらかで運用が割れる。被災の局面では、届出が遅れることが普通に起きる。入居日を起算日とし、届出が遅れた分は遡って精算する扱いにしておくほうが、従業員の負担が小さい。
すでに定期券を購入している人が入居で経路を変える場合、未使用分の払戻しが生じる。会社が定期代を支給していたのであれば、払戻額の精算方法を先に決めておく。「本人が払い戻して会社に返す」のか「次月以降の支給で調整する」のかを決めないまま月をまたぐと、年末調整の段階で処理が難しくなる。
過大に支給していた期間が生じた場合、その部分は給与として課税される。金額が小さくても、対象者が多ければ源泉徴収の訂正が必要になる。9月中に一度、対象者リストを作って支給額と限度額を突き合わせておきたい。なお、税務上の個別の取扱いは所轄の税務署に確認してほしい。
実務でそのまま使えるチェックリスト
| # | やること | 期限の目安 | 担当 |
|---|---|---|---|
| 1 | 応急住宅・みなし仮設に入居予定の従業員を洗い出す | 9月上旬 | 人事総務 |
| 2 | 通勤手当の変更届に「入居日」「団地名」「新しい経路と片道距離」の欄を足す | 9月上旬 | 人事総務 |
| 3 | 起算日を入居日とし、届出遅れは遡及精算する旨を通達で明示する | 9月上旬 | 人事総務 |
| 4 | 住民票を移さない場合の取扱いを、被災期間の特例として文書化する | 9月上旬 | 人事総務 |
| 5 | 世帯が分かれる場合の判断基準(週の大半を過ごす場所)を決める | 9月上旬 | 人事総務 |
| 6 | 交通用具通勤者について、片道距離を実測し限度額表に当てはめる | 届出受理時 | 給与担当 |
| 7 | 駐車場代・有料道路代を支給している場合、加算後の限度額を再計算する | 届出受理時 | 給与担当 |
| 8 | 定期券の払戻しが生じる人の精算方法を決め、本人に案内する | 経路変更時 | 給与担当 |
| 9 | 限度額超過分を給与課税として処理し、対象者一覧を残す | 9月給与まで | 給与担当 |
| 10 | 今回の改定を「災害に伴う暫定」として台帳に注記し、退去時の再改定に備える | 改定と同時 | 人事総務 |
| 11 | 9月18日の新幹線再開で再度経路が変わる人を、あらかじめ印を付けておく | 9月中旬 | 人事総務 |
| 12 | 経路の届出と通勤災害の扱いは記事076と突き合わせ、届出の様式を一本化する | 9月上旬 | 人事総務 |