この記事は、被災地で修繕・解体を施工する事業場の安全担当と、自社の建物や従業員の自宅で応急処置が続いている人事総務・経営層に向けたものです。発災から30日が過ぎ、7月末に張ったブルーシートは1か月を越えました。9月は台風シーズンに入ります。ここで起きるのは「新しい被害」ではなく、「一度やった応急処置をもう一度やり直す作業」が、暑熱と雷雨のなかで発生することです。二度目の高所作業をどう管理するかを整理します。
いまの気象条件
熊本地方気象台は8月25日、台風第18号が強い勢力で奄美・沖縄地方に接近するが熊本県への直接的な影響はないとしたうえで、フェーン現象による高温、局地的な強風と乾燥、9月1日ごろまでの潮位上昇による浸水に注意を呼びかけています。あわせて「9月1日まで熱中症の危険性が高い状態が続く」としています。
気象庁の8月26日5時発表によれば、熊本地方は本日、昼過ぎから夕方にかけて所により雷を伴い非常に激しい雨が降る見込みです。熱中症警戒アラートは熊本県を含む37府県に発表され、8日連続となりました。予想最高気温は熊本で38度です。
つまり、同じ一日のなかに暑熱と雷雨が入ります。これは9月にかけて繰り返される条件です。
1か月経ったブルーシートは、最初のものではない
7月末から8月初旬に張った養生は、紫外線と高温で樹脂が劣化し、土のうや重しは風と雨でずれています。ハトメが裂けたり、留めた紐が切れたりしていても、地上からは見えません。台風や強い雷雨のときに一気に飛ぶのは、たいていこの状態のものです。
そして飛べば、張り直しが必要になります。応急修理の申請や公費解体の順番を待っている家屋では、この張り直しが何度も発生します。熊本県は8月25日14時時点で全壊1,692棟、大規模半壊210棟、半壊2,588棟、一部破損2万3,722棟としており、屋根の応急処置が残っている棟数は相当数にのぼるとみられます。
二度目の高所作業のほうが危ない
一度目は緊張感がありました。二度目は「前もやったから」で足場を省き、単独で上がり、短時間で終わらせようとします。復旧作業に伴う労働災害は死亡17名、休業4日以上106名(厚生労働省 第58報・8月24日19時時点)で、前報から1名増えています。件数の増え方は8月中旬より緩やかになりましたが、止まってはいません。
屋根の応急処置に固有の危険は記事029に整理しています。9月に向けて加わるのは次の三つです。
第一に、雨で濡れた既設のブルーシート上は、乾いた瓦より滑ります。二度目の作業は「雨が降ったあと」に発生するため、この条件が常につきまといます。
第二に、退避に時間がかかります。落雷や突風が近づいたとき、屋根の上にいる人が地上まで降りるには、平地の作業より確実に長い時間が必要です。中止の判断は、雨が降り始めてからでは遅すぎます。
第三に、暑熱と雷雨の中止基準が別物であることです。熱中症については、アラートが出ない日の自社基準の作り方を記事043で扱いました。雷雨についてはこれと別に、発雷確度と降水短時間予報を誰が見て、何分前に降ろすかを決めておく必要があります。二枚の基準を、同じ紙に並べて掲示してください。
解体を待つ建物を、台風の前に誰が見るか
熊本市は8月25日に被災家屋等の解体・撤去(公費解体)の事前予約受付を開始し、申請書類の受付期間を9月10日から12月10日までとしています。予約から解体までには相応の期間があり、その間に台風シーズンが来ます。
半壊以上と判定され、解体を待っている建物は、所有者にとって「もう直さない資産」です。しかしそれが事業場の敷地内にあれば、あるいは隣接していれば、飛散や部分倒壊のリスク管理からは外れません。解体待ちの建物について、立入禁止の範囲を物理的に示すこと、周囲に置いた資材や車両を移動させること、強風予報の前に外れかけた部材を地上から確認することは、解体の順番待ちとは無関係に必要です。公費解体の現場側の安全については記事062、解体前に残す記録については記事075を参照してください。
発注する側が9月に確かめること
自費解体や修繕を発注する事業場が注文者としてどこまで負うかは記事072で整理しました。9月に向けて追加で確かめるのは、工期の設定です。
台風接近で数日の中断が入ることを前提にしていない工期は、そのまま無理な作業日程に転写されます。中断分を後ろ倒しできる契約になっているか、中断中の費用をどちらが負担するかが曖昧なままだと、施工側は雨の合間に急いで上がることになります。発注者が「遅れてよい」と先に言うことが、いちばん効く安全対策です。復旧工事が長引く局面での労働時間の管理については記事056に整理しています。
一人親方や自主施工者が労災保険の外に落ちる問題は記事073で扱いました。特別加入の確認は、9月の着工前に済ませてください。
実務でそのまま使えるチェックリスト
| 確認事項 | いつまでに | 担当 |
|---|---|---|
| 自社建物・社宅・敷地内の既設ブルーシートを、地上から双眼鏡等で劣化・ずれ・破れの有無を点検 | 今週中 | 安全担当 |
| 暑熱の中止基準と、落雷・突風の中止基準を別立てで文書化し、同じ場所に掲示 | 8月中 | 安全担当・産業保健職 |
| 雷雨接近時に屋根上から地上まで退避するのに要する時間を実測し、中止の号令をかける時刻を逆算 | 9月の作業開始前 | 現場責任者 |
| 濡れたブルーシート上の作業を原則禁止とし、乾燥待ちの判断者を決める | 9月の作業開始前 | 現場責任者 |
| 二度目以降の張り直し作業でも、足場・フルハーネス・複数人作業を省かない運用を再確認 | 今週中 | 安全担当 |
| 解体待ち建物の立入禁止範囲を物理的に表示し、周囲の資材・車両を移動 | 強風予報の前日まで | 施設管理 |
| 発注中の解体・修繕工事について、台風中断を織り込んだ工期と費用負担を書面で確認 | 9月着工前 | 人事総務・調達 |
| 一人親方・自主施工者の労災保険特別加入の有無を確認 | 9月着工前 | 人事総務 |
| 従業員に対し、自宅屋根への単独での再登はしないよう周知し、相談窓口を示す | 今週中 | 産業保健職 |