熊本市で被災家屋等の解体・撤去の事前予約が、本日8月25日に始まる。申請の受付は9月10日からで、12月10日まで続く。ここから年末にかけて、従業員の家は片づけられ、壊され、更地になっていく。困るのは、壊した後で「あのときの写真はありますか」と聞かれる場面が、税と償還の両方で必ず来ることである。この記事は、人事総務と、従業員本人に配る資料をつくる立場の産業保健職に向けて、今週のうちに一言だけ伝えておくべきことを整理する。
今日から動き出す手続きの形
熊本市の解体・撤去は、全壊・大規模半壊・中規模半壊・半壊の判定を受けた家屋等が対象とされている。事前予約は8月25日から、城南まちづくりセンターまたは市役所本庁舎の窓口と電話(096-328-2430)で、平日9時から17時まで受け付ける。申請受付は9月10日から12月10日までで、9月は土日祝も受け付ける予定と案内されている。申請に必要な書類は「決定次第、速やかにお知らせします」とされており、本日時点では確定していない。
自分で業者に頼んで解体し、後から費用の償還を受ける自費解体については、市の案内が明確である。償還の手続には、解体工事の前・工事中・工事後の状況を記録した写真、契約書、領収証、廃棄物処理の帳票の保管が必要とされている。建物全体の解体が対象で、一部解体は対象外とされている点も、事前に知らないと取り返しがつかない。
年末調整では引けない、ということだけは先に言う
被災した従業員の多くは、10月から11月に年末調整の書類を受け取る。そのときに「災害の分もここで引いてもらえるのだろう」と考えるのは自然だが、雑損控除は年末調整では適用できず、確定申告が必要になる。災害減免法による軽減免除も同じく確定申告の手続である。
この一文を年末調整の案内に添えるかどうかで、翌年2月から3月の混乱がかなり変わる。逆に、給与所得者が年内に手当てを受ける道として、災害減免法には源泉所得税の徴収猶予や還付の仕組みがあり、所定の手続をとれば適用される場合があるとされている。会社が代わりに判断することはできないが、「そういう制度がある」と伝えて所轄税務署への相談につなぐところまでは、人事総務の仕事として成り立つ。
二つの制度は、どちらか一方を選ぶ
雑損控除は、地震などの災害で住宅や家財に損害を受けた場合に、損失額を所得から差し引く仕組みである。控除額は「損害金額+災害等関連支出−保険金等−総所得金額等の10%」と「災害関連支出−保険金等−5万円」のいずれか多い方とされ、その年の所得から引ききれない分は翌年以後3年間繰り越せる。国税庁は、令和5年4月1日以後に発生した特定非常災害による損失については5年間としており、今回の地震は8月8日に特定非常災害に指定されているため、繰越しの年数がどちらになるかは所轄税務署で確認したほうがよい。
災害減免法は、住宅または家財の損害額(保険金等で補てんされる分を除く)がその時価の2分の1以上で、その年の所得金額の合計が1,000万円以下の場合に、所得税を軽減または免除する制度である。所得500万円以下は全額免除、500万円超750万円以下は2分の1、750万円超1,000万円以下は4分の1の軽減とされている。
両方を同時に使うことはできず、有利な方を選ぶ。どちらが有利かは所得と損害の大きさで変わるため、会社が試算して助言する話ではない。人事総務が担うのは「選択できる二つがある」と知らせることと、税務署や税理士に相談する時間を勤務の中に置くことである。
更地になると、確かめようがなくなる
税でも償還でも、後から必要になるのは被害の程度を示す記録である。壊してしまえば、現物での確認はできない。予約から解体までの数週間が、事実上の最後の機会になる。
従業員に渡す紙には、次の順で書くと伝わりやすい。まず、建物の全景と損傷部分、室内、被災した家財を、日付が分かる形で撮る。次に、罹災証明書の写しを手元に残す。そして、解体・撤去・修繕の見積書と領収証、保険金の支払通知、廃棄物処理の帳票をひとまとめにする。公費解体は所有者が費用を負担しないため、その部分を災害関連支出として計上できるかどうかは扱いが分かれる。ここも税務署に確認するよう促す形にとどめたい。罹災証明の判定そのものについては記事063、申請と窓口の通い方は記事022に整理している。
もう壊してしまった人にも、できることが残っている
7月末から8月にかけて、危険な状態の建物を待たずに自分で撤去した従業員もいる。その人たちにとっては、償還の可否が生活の再建に直結する。写真を撮っていなかったとしても、あきらめる前に確認できることはある。工事を請け負った業者が着工前後の写真を持っていることは多く、契約書、領収証、廃棄物の処理帳票が残っていれば、手続の入口には立てる。市の案内では、償還の対象は建物全体の解体で、一部解体は対象外とされている点も、早めに知っておいたほうがよい。
会社がここでできるのは、「もう壊したから関係ない」と本人が思い込まないよう、対象になり得ることを社内に一度告知することである。判断そのものは市の窓口が行う。人事総務が可否を推測して伝えると、後で覆ったときに信頼を損なう。告知の文面は「該当する可能性があるので、書類を捨てずに窓口へ相談を」の一行でよい。
職場が用意できるのは、結局のところ時間
予約も申請も、平日9時から17時の窓口と電話である。9月10日以降の申請受付は9月の土日祝も予定されているが、それでも立会いや業者との打ち合わせは平日に寄る。時間単位の年次有給休暇、半日単位の休暇、時差出勤のいずれかを、9月から12月の期間限定で使えるようにしておくと、そのつど個別に相談する手間が消える。復旧工事を発注する側の責任は記事072、一人親方や自主施工者の労災保険については記事073に書いた。
実務でそのまま使えるチェックリスト
| 時期 | やること | 担当 |
|---|---|---|
| 今週中 | 「解体前に写真を撮る」の一枚紙を配布(全景・損傷部・室内・家財) | 人事総務 |
| 今週中 | 罹災証明書の写し、見積書・領収証、保険金通知の保管を周知 | 人事総務 |
| 8月中 | 予約・申請・立会いのための休暇の使い方を決め、社内に告知 | 人事総務 |
| 9月上旬 | 申請に必要な書類が市から公表されたら、社内案内を差し替え | 人事総務 |
| 10〜11月 | 年末調整の案内に「雑損控除は年末調整では適用できない」と明記 | 給与担当 |
| 随時 | 税務の個別判断は所轄税務署・税理士へつなぐ(会社は試算しない) | 全体 |