発災から5日が経ち、断水の性格が変わった。発災直後の「まもなく戻る断水」ではなく、復旧の見込みそのものがまだ示されていない断水である。国土交通大臣は7月31日、水道の応急復旧の見込みについて「来週中に示したい」と述べた。見込みを示す時期が来週中であるということは、通水はさらにその先だということでもある。
この記事は、断水地域に事業場を持つ人事総務・産業保健職、および断水地域に住む従業員を抱えるすべての職場に向けて書いている。すでに記事010で断水下の事業場運営(飲料水、トイレ、手指衛生、食堂再開判断)を扱った。本記事はその続きとして、断水が週単位で続く前提に切り替えたときに何を組み直すべきかを扱う。
1. 本日8時時点の断水状況
熊本県災害対策本部は8月1日14時時点で県内約6万9,400戸の断水を発表している。同日7時30分時点では約7万2,000戸で、半日で約2,600戸の減少である。市町村別では八代市が約2万5,300戸、宇城市が約1万7,800戸、宇土市が約1万2,200戸、上天草市が約7,300戸で、八代市と宇城市は市内全域が断水しているとされる。一方で御船町・芦北町・天草市は解消した。
ここから読み取るべきことは二つある。第一に、断水は「県全体で一律に長引く」のではなく、解消する自治体と全域断水が続く自治体に分かれ始めている。第二に、残っている断水は減り方が緩やかで、配水管の末端の漏水を一つずつ潰す段階に入っている。八代市・氷川町については、水源地からの配管が破損しているため長期化のおそれがあると報じられており、他地域と復旧の性質が異なる。
政府は8月1日の非常災害対策本部会議で、断水の早期解消に向けて全国の自治体に水道の技術職員の派遣を要請する方針を示した。全国からの応援を要する規模だという認識が示されたことは、裏返せば県内の体制だけでは短期解消が難しいという判断でもある。
2. 「復旧見込みが出るまで待つ」を選ばない
事業場の意思決定でよく起きるのが、復旧見込みの公表を待って再開計画を立てようとすることである。今回は、その待ちが最低でも1週間を空費させる。見込みが示されるのが来週中で、示されるのは「見込み」であって通水日ではない。
代わりに置くべき前提は、次の三段構えである。
- 短期(〜8月8日ごろ):通水しない前提で回す。給水車・ボトル水・仮設トイレで持たせる期間。
- 中期(8月中旬まで):一部地域で通水、一部地域で断水継続という「まだら」の状態。事業場は通水したが従業員の自宅は断水、あるいはその逆が起きる。
- 長期(8月下旬以降):通水後の水質・設備の問題が主役になる期間。
この三段構えを紙に落とし、どの段階で何をやめ、何を始めるかを決めておく。決めておけば、日々の断水戸数の増減に一喜一憂して判断が揺れることがなくなる。
3. 事業場側で組み直すもの
飲料水の在庫を「日数」で管理する。 残本数ではなく「あと何日分か」で見る。熱中症対策として、猛暑下の作業では1人1日3リットル以上を見込む必要がある。応急給水は1人1日3リットルを上限とする自治体もあり、これは生活用途を含めた最低限量であって、屋外作業者の必要量ではない。事業場が自前で確保する分と、従業員が持ち帰る分を分けて管理する。
トイレの運用を「1週間もつか」で点検する。 仮設トイレやラップ式トイレの備蓄は、多くの事業場で3日程度を想定している。1週間を超えると凝固剤・汚物袋・し尿くみ取りの手配が追いつかなくなる。くみ取り業者は被災地全体で逼迫するため、契約と回収頻度を今週のうちに確認しておきたい。
手指衛生の代替を固定する。 断水下ではアルコール手指消毒が主役になるが、目に見える汚れがある手にはアルコールが効きにくい。復旧作業や災害ごみの取り扱いで手が汚れる職場では、ウェットティッシュで物理的に汚れを落としてからアルコール、という二段階を手順として掲示する。ノロウイルスなどアルコールが効きにくい病原体もあるため、食堂・給湯室の運用は記事010の判断基準を維持する。
シャワー・洗濯の外部資源を職場が把握しておく。 熊本市は被災者向けの無料入浴サービスを案内している。自衛隊入浴支援や商業施設の開放も含め、事業場の近くと従業員の居住地域の両方について、開設場所と時間を一覧にして共有する。特に屋外作業者・復旧要員は、汗と粉じんを流せないことが皮膚障害と睡眠の質の低下に直結する。
通水後を今から準備する。 断水が解消した瞬間に、貯水槽・受水槽の清掃、給湯設備・冷却塔の再稼働、長期滞留した配管内の水の排水という作業が一斉に発生する。滞留水はレジオネラ属菌の増殖リスクがあり、シャワーや冷却塔からのエアロゾルが問題になる。清掃業者は通水後に殺到するため、予約は通水前に取る。この段取りだけは、断水中の今にしかできない。
4. 従業員の生活側で起きていること
断水が週単位になると、従業員の生活時間の使われ方が変わる。給水拠点は多くが7時から19時の運用で、勤務時間と完全に重なる。水を運ぶのは重労働で、20リットルのポリタンクは20kgになる。高齢の家族がいる世帯では、この往復が毎日発生する。
ここで職場が決めておくべきことは三つある。
第一に、給水のための遅刻・中抜けを、事前申告なしでも認める運用にすること。申告を求めると、申告できない人が無給欠勤か無理な出勤を選ぶ。
第二に、水を職場から持ち帰ることを公式に認めるかどうかを明言すること。曖昧にしておくと、持ち帰る人と我慢する人に分かれ、後者が消耗する。持ち帰り可とするなら、量と容器を決めて公平にする。
第三に、トイレを我慢して水分を控える行動を、名指しで止めること。断水地域では、自宅・避難所のトイレ環境が悪いために意図的に飲水を減らす人が出る。これは猛暑下では熱中症、車中泊が続く人では静脈血栓塞栓症のリスクを直接押し上げる。「トイレのために水を減らさない」というメッセージを、産業医・保健師の名前で出すと届きやすい。
本日8月2日の熊本県の予想最高気温は39度、3日は40度と、県内で観測されたことのない暑さが予想されている。8月2日は熊本県を含む30都府県に熱中症警戒アラートが発表されている。断水と猛暑が同時に来ている以上、水の話は生活支援ではなく安全衛生の話として扱うべきである。
5. 事業継続の判断に断水を組み込む
製造業では、地震直後から操業停止が相次いでいると報じられている。停止理由は建物被害だけでなく、物流や仕入れ先の状況も含まれるとされる。ここに水の観点を足すと、再開判断は次の順で点検できる。
- 工程に水を使うか(冷却水、洗浄水、蒸気、製氷)。使うなら代替水源の水質は用途に足りるか
- 従業員が使う水(飲料、トイレ、手洗い、シャワー)を、操業時間中に確保できるか
- 断水地域から通う従業員が、何割いるか。その人たちの出勤が水運びと両立するか
- 通水したときに、ただちに再稼働できる設備の準備ができているか
1と2が満たせない場合、建物の応急危険度判定が問題なしでも、再開は見送るか工程を絞る判断が妥当になりうる。この判断は経営の判断だが、2と3の材料を出すのは産業保健職と人事総務の役割である。
実務でそのまま使えるチェックリスト
| # | 確認項目 | 期限の目安 | 担当 |
|---|---|---|---|
| 1 | 飲料水在庫を「残日数」に換算し直したか(猛暑下は1人1日3L以上で計算) | 本日中 | 総務 |
| 2 | 仮設トイレの凝固剤・汚物袋・くみ取り契約が1週間分あるか | 本日中 | 総務 |
| 3 | 手指衛生の二段階手順(拭き取り→アルコール)を掲示したか | 本日中 | 産業保健職 |
| 4 | 事業場周辺と従業員居住地域の給水拠点・入浴施設の一覧を配布したか | 8月3日まで | 人事 |
| 5 | 給水のための遅刻・中抜けの取扱いを文書で周知したか | 8月3日まで | 人事 |
| 6 | 水の持ち帰り可否と量・容器を明示したか | 8月3日まで | 人事 |
| 7 | 「トイレのために飲水を減らさない」メッセージを産業医・保健師名で出したか | 8月3日まで | 産業保健職 |
| 8 | 断水地域に居住する従業員の人数と地域を把握したか | 今週中 | 人事 |
| 9 | 貯水槽・受水槽の清掃、給湯設備・冷却塔の再稼働手順と業者予約を確保したか | 通水前に | 設備 |
| 10 | 再開判断のフローに「水」の項目(工程用水・生活用水)を追加したか | 今週中 | 経営/産業保健職 |
| 11 | 屋外作業・片づけ作業の中止基準を、平時より一段厳しく設定し周知したか | 本日中 | 産業保健職 |
| 12 | 断水が長期化した場合の在宅勤務・他事業場勤務の可否を検討したか | 今週中 | 人事 |