043_アラートが出ない日に、誰が作業を止めるのか — 外的な指標が消えた8月中旬の中止基準を、自社の数字で決める

8月13日の熊本県に、熱中症警戒アラートは発表されていない。環境省の8月12日17時発表では、本日・明日とも全国で発表が0件である。しかし熊本市の予想最高気温は34℃、最低気温は25℃で、屋外の片付けと応急修理は連休中も続く。この記事は、産業保健職・安全担当・人事総務が、アラートという外的な合図がない日に、それでも作業を止める仕組みをどう持つかを扱う。基準づくりそのものは記事025で酷暑日を前提に整理したが、ここで問うのは「40℃の日にどうするか」ではなく、「34℃で誰も何も発表しない日に、判断を誰に委ねるか」である。

目次

アラートが出ないことは、危険がないことを意味しない

熱中症警戒アラートは、府県予報区内の暑さ指数(WBGT)の予測値が33以上と見込まれる場合に発表される。逆に言えば、WBGT予測が32であれば発表されない。32は、日本産業衛生学会の許容基準や職場における熱中症予防基本対策要綱の区分では、中等度以上の作業でとうに「危険」の領域である。発表の有無は連続量に置かれた一本の線であって、その線の手前が安全という意味ではない。

8月13日の熊本の条件を、いくつか具体的に置いておく。予想最高気温34℃、最低気温25℃。夕方以降の降水確率は40%で、雷と乾燥の注意報が出ている。断水は八代市を中心に約3万3,300戸で続いており、被災地域では作業後にシャワーを浴びられない家庭がなお多い。夜間の最低気温25℃は、熱帯夜の下限であり、前日の熱の蓄積が抜けにくい。つまり「アラートが出ていない日」の熊本は、平時の34℃の日とは別の条件下にある。

アラートが消えると、何が現場で起きるか

これまでの2週間、熊本県では熱中症警戒アラートが繰り返し発表され、それが作業中止や時間帯変更の根拠として機能してきた。外的な合図には、現場の判断を代替してくれる力がある。「アラートが出ているから今日は午前で切る」という説明は、施主にも元請にも通りやすい。

その合図が消えた日に起きるのは、判断の空白ではなく、判断の下方への移動である。決めるのは現場の責任者、あるいは作業者本人になる。そして本日から16日までのお盆期間は、応急修理の駆け込みと帰省者による自宅の片付けが重なる一方、事業場の管理職・安全担当・産業保健職が手薄になる。単独作業、家族だけの屋根上作業、休憩の省略が起きやすい条件が揃う。記事042で扱ったとおり、復旧工事に伴う負傷はすでに増加傾向にある(死亡17人・負傷13人、厚生労働省第46報の8月10日12時確認分)。

自社基準は「発表」ではなく「実測」に紐づける

対処は単純で、中止基準の一次指標をアラートからWBGTの実測値に移すことである。2025年6月から、労働安全衛生規則の改正により、熱中症のおそれがある作業を行う事業者には、自覚症状・他覚症状が生じた場合の報告体制の整備、および悪化を防ぐ措置の手順の作成・周知が義務づけられている(記事005参照)。この手順書に、中止のトリガーを数字で書き込んでおけば、発表の有無に依存しなくなる。

実務的には、次の3点で足りる。第一に、作業場所にWBGT計を置き、始業時・10時・13時・15時の4回測る。第二に、測定値と作業強度の組み合わせで、休憩比率と中止のラインをあらかじめ表にしておく。第三に、測った値と、そのとき何をしたか(休憩延長・作業変更・中止)を1行で残す。記録は、後日の労災請求や、施主・元請への説明の際にそのまま使える。

被災地では、測定値そのものより測る場所の選び方で結果が変わる。屋根の上、天井裏、通電していない建物の内部、給水待ちの列は、いずれも気象台の観測地点とはかけ離れた環境である。県内の予報が34℃でも、遮蔽のない屋根面や、空調の入らない事業場内では体感される負荷がはるかに大きい。測定点は、最も条件の悪い作業場所に置くのが原則である。断水が続く地域では、作業後に身体を冷やす手段が限られることも、休憩の設計に織り込む必要がある。

復旧作業中にどうしてもWBGTを測定することが困難な場合、当センターが開発した熱中症対応アプリの資料を検討する。同アプリは現在地のWBGT値を収集し、WBGT値に即した飲水間隔(20〜30分)を提供する。測定ができない場合、飲水を活動の一環にするのがポイントである。すなわち20〜30分に1回飲水するのも活動である、と位置づけリーダーは全員に飲水を支持することが必要である。

活動開始前(飲水)→活動(20〜30分)→飲水→活動(20〜30分)→飲水と塩分摂取→活動(20〜30分)・・・

これを繰り返す。理想的には飲水時には休憩を同時に行い体を一旦完全に冷やすことが望ましい。 

「止める権限」を、その場にいる人へ渡しておく

基準を紙に書いても、止める権限が本社や元請にあるままでは、連休中の現場では機能しない。連休前の今日のうちに、次の3つを文書一枚で明示しておきたい。

止める権限を持つ者を、その場の最上位者と作業者本人の双方に置くこと。作業者が「今日はやめたい」と言った場合、理由の説明を求めずに中止できるようにすること。中止した場合の賃金の扱い(休業手当か、所定内の作業変更か)を先に決めておくこと。3点目が曖昧なままだと、賃金への不安が中止をためらわせる。

あわせて、連休中の連絡先を単線にしない。産業保健職が不在の日に、誰へ連絡すれば判断が得られるかを、氏名と携帯番号で示しておく。避難所・親族宅・賃貸型応急住宅へ居所が移った従業員が多い時期であり、居所と連絡先の更新は記事041で扱ったとおり、この週の課題でもある。

連休中に事業場の外で働く人をどう扱うか

この時期に特有なのは、労働として管理されない作業の比重が大きいことである。従業員が自宅や実家の片付けをする、ボランティアとして他人の家屋の泥出しに入る、地域の墓地や寺の後片付けに出る。いずれも事業場の指揮命令下にはないが、翌日の出勤に直結する。

事業場としてできるのは、指示ではなく情報の提供と、翌日の受け止め方の設計である。具体的には、連休前の最終出勤日に、屋外作業の時間帯(原則として10時から15時を外す)、水分と塩分の摂り方、単独で屋根に上がらないこと、体調不良時の受診先を、1枚の紙で渡しておく。連休中は医療機関の休診が重なり、記事038で扱ったとおり処方の切れ目も生じやすい。連休明けの出勤時に、体調不良を申告しやすい形を用意しておく。ボランティア参加者の安全衛生については記事021に整理がある。また、緊張が解ける時期に不調が申告されなくなる傾向は記事036で扱った。連休明けは、その両方が重なる日になる。

実務でそのまま使えるチェックリスト

区分今日決めること担当
指標中止判断の一次指標をWBGT実測に変更し、アラートは補助指標と位置づける安全担当
測定各作業場所にWBGT計を配置し、始業時・10時・13時・15時に測定現場責任者
基準作業強度別に、休憩比率と中止のWBGT値を表で明示安全担当・産業医
権限中止権限を現場最上位者と作業者本人の双方に付与し、文書化事業者
賃金中止時の賃金の扱いを事前決定し、周知人事総務
単独作業連休中の単独作業を原則禁止とし、やむを得ない場合の定時連絡を設定現場責任者
連絡連休中の判断先(氏名・携帯番号)を1枚にして全員へ配布人事総務
記録測定値と対応を1行で記録。労災請求・元請説明にそのまま使う現場責任者
連休明け出勤時の体調申告の窓口と、申告しやすい様式を用意産業保健職

参考

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