026_避難所から次へ移る日 — 2次避難・応急住宅への移行期に、職場が支えられること

8月3日、熊本県はホテル・旅館への「2次避難」の受付を開始した。観光庁と県で73施設・最大2,200人分を確保したと発表されている。建設型応急住宅の建設も始まったと報じられている。この記事は、被災地の人事総務と産業保健職、および被災地外の本社人事に向けて、従業員が避難所から次の居所へ移る移行期に、職場側で何を準備し、何を見ておくべきかを整理したものである。移行は生活再建の前進だが、健康リスクと就業上の負担がむしろ増える局面でもある。

目次

移行期は「前進」であって「解決」ではない

2016年の熊本地震では、災害関連死が直接死を大きく上回り、その多くが発災から数週間から数か月の間に生じた。避難所の環境が改善しても、あるいは避難所を出ても、リスクが消えるわけではない。むしろ移行の前後には、次の性質の異なるリスクが重なる。

移動そのものの負担がある。持ち物をまとめ、手続きをし、車で移動する。高齢の家族や小さな子どもを連れていれば半日から丸1日を要する。8月3日は熊本県内で40度が予想される酷暑日であり、移動の当日に熱中症を起こす危険がある。

生活圏が変わることの負担がある。2次避難先のホテル・旅館は、必ずしも従前の住居の近くにあるとは限らない。観光庁は施設確保を九州全域に広げる方針を示している。通勤経路が変わり、子どもの通学先や保育所との距離が変わり、通院先が遠くなる。九州新幹線の熊本〜新水俣、鹿児島本線の宇土〜八代は8月中の再開が困難とされ、高速道路も9区間が通行止めのままである。移動手段の制約は当面続く。

そして、つながりが切れることの負担がある。避難所には人の目があり、保健師の巡回があり、支援物資が届く。ホテルの個室や仮設住宅に移ると、それらが一斉に減る。2016年の教訓として繰り返し指摘されたのが、この「孤立化」であり、アルコール、生活不活発、うつ、孤独死のリスクが上がる時期にあたる。職域は、この時期に本人と定期的に接点を持つことができる数少ない場である。

職場が先に決めておくべき3つのこと

手続きのための時間をどう扱うか。 2次避難の申込、罹災証明書の申請、住宅応急修理制度の申請、応急仮設住宅の申込、保険の請求。これらはいずれも平日日中の窓口で行うものが多く、しかも一度では終わらない。従業員が有給休暇を使い切る前提の運用にすると、後から必要になる療養や家族の看護のための休暇が残らない。特別休暇を設けるか、時間単位年休や中抜けを認めるか、就業規則の災害時条項をどう運用するかを、今週中に決めて周知したい。制度の詳細は記事020、罹災証明の窓口対応は記事022を参照されたい。

居所の把握をどう続けるか。 従業員の居所は、この2週間で「自宅→避難所→2次避難先→応急住宅」と最大3回変わりうる。安否確認の連絡先が古いままだと、緊急時に届かない。居所と連絡先の更新を、月次ではなく週次で回す仕組みが要る。ただし、居所は極めてセンシティブな情報である。収集する目的(安否確認、通勤手当、支援情報の提供)を明示し、閲覧できる範囲を限定し、人事評価に用いないことを明言したうえで集める。

通勤条件の変更をどう扱うか。 2次避難先が遠隔地になれば、通勤時間・経路・費用が変わる。通勤手当の支給基準、通勤災害の認定にかかわる「合理的な経路」の考え方、マイカー通勤の可否と駐車場、在宅勤務の適用範囲。これらを個別に判断していると不公平感が生じるため、当面の暫定ルールを一枚にまとめて配布するのが早い。鉄道と高速道路の長期寸断を織り込んだ勤務設計は記事024で扱っている。

移行期に職域が見るべき健康上のサイン

移行の前後2週間は、次の点を意識して面談・声かけを行いたい。産業医面談を待つのではなく、所属長の日常の会話で拾えるものが多い。

睡眠。 避難所からホテルに移ると、環境は改善するが、かえって眠れなくなる人がいる。緊張が解けたタイミングで不調が出るのは災害後によくある経過である。「眠れていますか」ではなく「何時に寝て何時に起きましたか、途中で目が覚めますか」と具体的に聞く。

飲酒。 個室になり、人目がなくなり、やることがない時間が増える。避難所では飲まなかった人が、ホテルの個室では飲む。量と頻度を、責める調子ではなく事実として確認する。

服薬の継続。 移動で薬を置いてきた、かかりつけが遠くなった、処方の期限が切れた。県内では薬局の被災が続いており、モバイルファーマシーの派遣も行われている段階である。降圧薬・糖尿病薬・向精神薬・抗凝固薬の中断は、数週間後の重大事象につながる。「薬は手元にありますか、次はいつまで分ありますか」まで踏み込む。

活動量。 ホテルの個室や仮設住宅では、日中の移動がほとんどなくなる。高齢の家族が同居していれば、その人の生活不活発が急速に進む。従業員本人だけでなく、同居家族の状況を聞く。

役割の偏り。 手続き、移動、家族の世話、片付けが特定の人に集中していないか。共働き世帯では、学校や保育所の再開状況によって片方に負担が寄る(記事016)。

「動けない人」を見落とさない

2次避難や応急住宅への移行が進むほど、動かない・動けない人が見えにくくなる。次のような人が該当する。

ペットがいて宿泊施設に入れない人。要介護の家族がいて移動そのものが困難な人。仕事の都合で被災地を離れられない人(復旧作業に従事している従業員自身がここに含まれる)。車中泊を続けている人。制度の存在を知らない人、日本語で流れる情報が届かない外国人従業員(記事017)。

この地震で最初に公表された災害関連死の疑いは、車中泊をしていた70代女性の熱中症の疑いであった。車中泊者は避難所の名簿にも仮設住宅の申込者名簿にも載らない。職場が把握できる可能性のある数少ないルートが、所属長からの個別確認である。「避難所にいますか」ではなく「昨夜はどこで寝ましたか、エアコンはありましたか、水は使えましたか」と聞く。

1か月先を見据えた設計

移行期の対応は、その場しのぎで終わらせず、1か月後・3か月後の枠組みに接続したい(記事015)。具体的には、居所と生活状況を記録する簡易な様式を今のうちに作り、週次で更新する。発災1か月の時点で、全従業員を対象にした簡易な健康チェック(睡眠・飲酒・気分・服薬・生活の困りごと)を実施する予定を、今のうちにカレンダーに入れる。産業医・保健師の面談枠を、9月以降も継続して確保する。この3つを今週中に決めておくと、支援が細る時期に職域の目が残る。

実務でそのまま使えるチェックリスト

#項目担当期限の目安
12次避難・罹災証明・応急住宅等の手続きのための休暇・中抜けの扱いを決め、周知した人事総務8月4日まで
2有給休暇を使い切らせない運用(特別休暇・時間単位年休等)を確認した人事総務8月4日まで
3従業員の現在の居所と連絡先を、週次で更新する仕組みを作った人事総務8月5日まで
4居所情報の収集目的・閲覧範囲・不利益取扱いをしない旨を明示した人事総務収集開始前
5通勤手当・通勤経路・マイカー通勤・在宅勤務の暫定ルールを一枚にまとめて配布した人事総務8月5日まで
6車中泊・自宅避難を続けている従業員を所属長経由で洗い出した所属長本日中
7ペット・要介護家族等の事情で移行できない従業員を把握した所属長8月5日まで
8外国人従業員に、やさしい日本語・母語で2次避難と支援制度の情報を届けた人事総務8月5日まで
9服薬中断の有無(残薬・かかりつけまでの距離)を全員に確認した産業保健職8月7日まで
10睡眠・飲酒・活動量を聞く共通の声かけ文例を所属長に配った産業保健職8月5日まで
11移行当日の移動が酷暑と重なる場合の配慮(時間帯・同行)を検討した所属長都度
12発災1か月時点の全従業員向け健康チェックの実施日をカレンダーに入れた産業保健職8月7日まで
13産業医・保健師の面談枠を9月以降も継続確保した人事総務8月7日まで
14同居家族(特に高齢者・子ども)の状況を聞く項目を面談に加えた産業保健職8月5日まで

参考

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