産業医科大学 学生へのメッセージ(災害産業保健センター案内)

 産業医になるか、臨床医を目指すか、様々な葛藤の中で大学生活を過ごしていることと思います。医学の勉強がほとんどであり、産業医のイメージがなかなかつかめないという人も多いと思います。産業医科大学の進路決定はほかの医学部と違い、学生時に入局先を決めることが必要になります。学生の時の判断がその後の医師人生の大きな岐路になっているとも言えます。したがって、真剣に悩むことが必要です。自分で多くの情報を集め、自分の目で研究室・講座等に訪問し教員の人となりをしっかりと確認し、十分な判断材料を集めたうえで入局先を決めることを勧めます。
 ひとりで悩んでいて回答が見つからない、そんなときには災害産業保健センター教員は学生の相談に乗ってきています。意思決定はかなり難しいものですが産業保健活動や診療行為で私たちはクライアント(労働者・患者)に意思決定を求めることが時に発生します。自ら意思決定する際に悩む経験をした学生は、卒業してからもいい医師になることができると私たちは信じてみます。自分の人生をしっかりと考え、歩みだす応援を私たちはしています。入局の有無はともかく、一度ご相談に来てみませんか。

※進路相談はお問い合わせに「進路相談希望」と記載して連絡してください。

当センターの特徴・教育方針
・「災害時に役に立つためには平時に役に立つ人材である必要がある」という信念で災害人材を育成
・災害を通じて平時の産業保健について総合的・具体的に学べる・教育を受けられる(総合産業医の育成)
・教員が教育熱心、産業衛生指導医である
・これまでの指導医実績は医師20人以上、保健師10名程度
・教員の産業医としての経験が豊富(リクルート、西日本新聞、ソニー、デロイトトーマツ、リコー、など多数)
・産業医として一人前(10年以上)、希望があれば一流になるまで(15年以上)キャリアを支援
・多様性を重視し個人にあった教育プログラムの提供
・国内唯一の災害対応者の健康支援機関
・研究は実務に直結した研究を基本とする。研究をすることで実務能力の向上につながるテーマを選定。
・研究面での実績 リンク⇨Researchmap

変化に即応する力を養成する
 災害が発生した時というのは、急激な現状変更が発生します。すなわち、リスクが大きく変化するタイミングです。したがって、災害対応は通常の予見可能なリスクアセスメントで解決することはできず、クライシスマネジメントという都度ごとに過去の経験を踏まえ短い期間での意思決定を行うことになります。通常の産業保健活動ではない、計画に沿った改善活動であるPDCA(Plan – Do – Check – Act)型ではない、解決の方法を検討することが必要になります。
 翻って、昨今の技術革新を皆さんはどのようにとらえているでしょうか。AIが人間の仕事に多分な影響を及ぼし、昨日までの常識が通用しないようなAgileな(素早い動きの)社会になりつつあります。不確実で予測困難でこれまでの常識が通用しがたいVUCA時代(Volatility;変動性、Uncertainty;不確実性、Complexity;複雑性、Ambiguity;曖昧性)の幕開けで、PDCA型社会からの転換期と言われています。災害を学ぶということは、このような素早い変化の社会に即応できる能力の獲得にもつながります。

全体は部分の総和に勝る
 アリストテレスの言葉です。優れたパーツを集めてから作り上げても出来上がったものは全体の不整合になります。例えば、各種ブランド時計の歯車(ブランドA)、長針(同B)、短針(同C)、フレーム(同D)を集めて作り上げたものはパーツ品質は高いかもしれませんが、胸を張って皆さんにお見せすることができないようなもの、場合によっては売り物にならないものになることでしょう。私たちの産業医教育について、最初にすることは「その学生のイメージする産業医像を一緒に考え作り上げていくこと」です。そのうえで、必要なパーツ(教育)を提案していく、さらにブランドとしての訴求力のあるパーツを洗練させていく(市場価値を高める)、ということになります。つまり、ひとり一人をオーダーメイドで育てていくことになります。これはかなり労力の必要な作業です。私たちは多くの学生を受け入れることは困難と考えており、ひと学年で3名程度くらいまでがキャパであると考えています。したがいまして、入局希望者は早めにご相談に来ていただくようお願いします
 また、このような合意ができる学生のみ受け入れる、という方針です。全体ではなく部分のみを高めたい(たとえば、メンタル面談のみに特化した産業医になりたい、化学物質のコンサルトのみでやっていきたい、など)、という方は私たちのセンターでは基本的にはお断りしております。

教えること・育てること
 入局していない人にも産業保健を教えることは可能です。しかし、育てることは容易ではありません。産業保健は高度なバランスをもって対応せざるを得ず、サイエンスのみでは正解にたどり着けません。似たようなケースであってもちょっとした条件の違いで正解になったり不正解になったりする、アートな部分が多く一般論がそのまま通用しがたいという特徴があります。テーラーメイドの洋服を作るように基本的な作成手順は決まっていますが出来上がりが随分変わるという性質です。つまり、プロセス(手続き)としての正当性を重視することが重要となります。このようなことは、短時間のレクチャーや実習で身につきにくく、経験の豊富な指導者で言語化能力の高い指導者が必要になります。私たちスタッフは常にそのことを理解し自己研鑽に努め高度な育成能力を保持し続けるよう努力しています。

支援とは
 自らのちからで越えられないような状況に対して行うものです。災害の場合は本来の機能を取り戻すために支援を行います。病気の労働者が一時的に能力が損なわれた場合、それらを手当てするために職場で配慮を検討することも支援です。すなわち、当事者が独り立ちできるように寄り添い応援することが支援の本質です。災害産業保健センター教員は支援のプロとして様々な支援活動(災害支援・両立支援・産業保健業務支援・進路支援など)を行っています。

当センターが考える医師のワークライフバランスとは
 生活を大事にしたい気持ちはすごく大事です。自分(の生活)を大事にできない人は他者を支援することはなかなか難しいと考えています。一方で、ワークライフバランスはどのレベルでバランスをとるかということはしっかり考えていただきたい。バランスという文字通り、仕事が高いレベルで実践できる能力を持っている人は、生活も自身の思うライフスタイルに持っていくことが可能になりやすいです。逆に仕事の質が低いと急に不本意な業務を命じられる(極端な例は勤務地変更)などがあっても従わざるを得ず、結果的に自分の思う生活からほど遠くなります。私たちは、真のワークライフバランスの獲得をしてもらいたく(欲張りな人生を謳歌してもらいたいと)思っているので確実な研鑽が受けられる環境を整備します。質の高い仕事ができる能力があれば、週休3日だろうが何でも自分で選択することが可能になるはずです。

本学教員による医局説明会の公開

講師・五十嵐侑による医局説明動画
教授・立石清一郎による医局説明動画
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