災害時の保健医療福祉調整本部に関する過去、現在と未来 – 健康危機管理センター設立に向けて〜〜第28回日本災害医学会パネルディスカッション24

3 月11 日10:00 ~ 11:30  第5 会場(アイーナ 8 階 812)に開催されました。


パネルディスカッションの趣旨として広島大学久保達彦先生から冒頭以下の説明がありました。
保健医療福祉調整本部等の健康危機管理に対応するコーディネーション体制の強化が進められてきている。特にDMATは自然災害、原子力災害、感染症災害のいずれにも対応し、現場のみならず本部レベルでも大きな役割を果たしいる。一方で、現状においては健康危機管理の体制整備は各ハザード別に進められており、また、都道府県の対応を国レベルで統括する本部も常設されていない。これらの課題から、現在、多様な健康危機管理にオールハザードかつ国レベルで対応する健康危機管理センター(PHEOC)の設置に係る検討が厚生労働科学研究によって進められており、多様な健康危機管理分野の取り組みを調整本部にフォーカスし、健康危機管理センター(PHEOC)の設置に向けた提言する。

浜松医科大学の尾島俊之先生からは保険医療福祉調整本部に関して発表がありました。
熊本地震の検証結果を受けた平成 29 年及びその後の令和 4 年改正の厚生労働省通知により、大規模災害が発生した場合 には、都道府県災害対策本部の下に、「保健医療福祉調整本部」等を設置することとされた。これは、保健医療福祉活動チー ムの派遣調整、保健医療福祉活動に関する情報連携、情報の整理及び分析等を行う。また、保健所に「地域保健医療福祉調整本部」等を設置する形も標準的となっている。本部の設置にあたり、本部構成員、本部長、本部事務局、本部会議、本部室などを検討しておくことが重要である。 この本部等の運営において、厚生労働省との連携は重要である。国の役割として、人材育成支援や広域的な人材の派遣、 標準化による情報活用・状況認識の共有の推進は重要であろう。 多様な立場や分野の関係者が、しっかりと意見交換し、合同で研修訓練を行っていくことで、より効果的な未来の保健 医療福祉調整本部活動につながることであろう。

感染研の齋藤智也先生からは感染研のEOC機能について発表がありました。
国立感染症研究所(感染研)感染症危機管理研究センターは 2020 年 4 月に発足し、感染研EOCを2021 年 7 月から本格的に運用してきた。場所の確保から機材の設置、 改装工事に始まり、組織図の作成、Microsoft365 の Teams を利用した情報共有・管理の仕組みづくりから始まった。オリパラのような予定されたイベントからサル痘 への対応など突発的な新興感染症の対応まで、異なるタイプの危機管理事例に対して計5回のアクティベーションを経験し、アクティベーション・ディアクティベー ションの基準作成、標準対応手順(SOP)の作成など、運用の形式を整え、また、緊急事態管理に関する教育や演習の企画・実施 やアフター・アクション・レビュー(振り返りと改善)のプロセスも取り入れてシステム化してきた。拡張可能性・所外組織との連携を見込んだ体制整備が必要と考えている。情報共有については、見通しの良い活動スペースの確保(たった一枚の衝立であっても情報共有を阻む)こと、オペレーションには阿吽の呼吸に頼らない標準化と権限を付与することの必要である。

広島大学の田代聡先生からは原子力災害に対応する PHEOC について発表がありました。
日本の緊急被ばく医療体制については、放射線災害が発生する度に整備され、1999 年の東海村 JCO 臨海事故を受け て、放射線総合医学研究所と広島大学が三次被ばく医療機関を担当し、初期及び二次被ばく医療機関と連携して対応する 緊急被ばく医療体制が構築されてきた。2011 年の東電福島第一原発事故では、大規模な放射性物質の環境中への放出により緊急被ばく医療体制が十分に機能することができなかった。このため、量子科学研究機構を基幹高度被ばく医療支援センター、広島大学など 4 大学を高度被ばく医療支援センター、原子力災害医療・総合支援センターとして、地域の原子力災害拠点病院などとともに原子力災害に対応する新しい原子力災害医療体制が整備された。今後発生する可能性のある原子力災害・核兵器使用などに備え、具体的なシナリオを踏まえ、DMAT と連携した大規模放射線災害に対する医療体制の構築が重要である。

DMAT事務局の近藤久禎先生からは災害医学の立場からPHEOCのあり方について発表がありました。
災害は需要と資源のアンバランスの状況であり、支援はそのギャップを埋めるためのものである。一つのリスクの専門家ではなく、社会医学・災害医学の総合的視点を持ったマネージメントが必要である。リスクの専門家は助言機能を担うべきであるが、単リスクの専門家の助言は、そのリスクのみに注視するあまり、総合的なリスクを上げる方向の助言になることもしばしばあるうえ、単リスクの専門家は、他のリスクが課題となる災害に 対応できず、その結果、練度が上がらず、実際の危機時には役に立たない可能性が高い。オールハザードも視野に入れた 助言組織が必要である。

国立保健医療科学院の冨尾淳先生からは行政職の指揮調整能力強化について国際的視点に立って発表がありました。
WHOはPHEOCを機能させるためには能力があり訓練を受けた人員が必要で、スタッフが未知の役割や責任を担うことがあってはならない、としている。MIMSでは、EOC人材に必要なものは、情報収集・分析・共有と、リソースに関するニーズ要求を満たすこと、とされている。災害・健康危機の対応においては、国と自治体、省庁・部局間の連携と調整、さらには国際社会との協調が必須である。こ れらの機能を担う対策本部の責任者は、時間や資源の制約のある中で、機動的に本部組織を組み替えながら、対応者の安全・ 健康にも配慮しつつ意思決定を行うことが求められる。わが国では、災害医療コーディネーター研修、DMAT 関連研修、 DHEAT 養成研修など、自治体職員や医療従事者等を対象とする専門領域の研修が実施され一定の成果を挙げてきた。しかし、 国や都道府県において健康危機に際して指揮調整機能を担う行政職の育成を目的とした教育・研修プログラムは確立して いない。一方、世界保健機関(WHO)をはじめとする国際機関や米国、英国などでは、行政職を対象とした体系的な研修プログラムの開発・提供を通じて、計画的な人材育成が行われている。

当センターの立石は以下の発表をしました。
災害対応者は様々な健康障害リスクにさらされる。過重労働やご遺体を見るといったメンタルヘルス上の問題点のみならず、暑熱作業や重量物作業の対応可能性、工場等から漏洩する化学物質や放射性物質などの曝露、といったように災害現場では想定外のハザードへの接点が存在する可能性がある。しかしながら、我が国の災害対応は被災者主体となる防護システムとなっており災害対応者らの健康を守るための仕組みがいまだ定着していない。災害対応者らの健康を守るための仕組みはたとえばアメリカでは簡易的なハザード評価を行い、曝露防止措置を行ったうえで活動することがインシデントシステム上定められている(ICS Form 208)。今回の新型コロナウイルス感染症においても、保健所等の自治体職員がバーンアウトとなり生産力低下が判明しており、生産性低下と業務の積み残しという負のスパイラルに入っていた可能性はある。我が国でも災害対応者の健康管理の仕組みを定着させることで、災害対応者の健康を守り、労働力を安定的に確保し、ひいては早期の災害復旧につなげることが肝要であると思われる。

これら、指定発言を受けて、PHEOCのあり方について会場内も含めた熱いディスカッションがなされました。

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