水害などでエアコンの室外機が故障するという事案が頻発しています。夏季において事業場のエアコンが突然故障すると、室温の上昇により作業者が熱中症リスクにさらされます。点検・修理・代替設備の準備に時間を要することが多いため、応急対応策を速やかに講じる必要があります。以下に、産業保健の視点から実務者向けに整理しました。
目次
1. 緊急時の実務体制確認
- 故障発生時には、迅速に管理責任者へ連絡し、応急対策体制を整備する。
- 事前に修理業者の連絡先・代替冷却設備(ポータブルクーラーや冷風機など)の調達ルートを明示しておく。
2. 室内環境の改善
暑熱環境の際、気温・湿度・気流・輻射熱の4つの指標が重要です。気流は扇風機、気温を下げるために気化熱、輻射熱は遮蔽といった対策があります。
- 通風の確保:可能な限り窓や出入口を開放し、扇風機・サーキュレーターで水平・垂直方向の風を循環させる。
- 遮熱対策:遮光カーテンやすだれを用いて直射日光を遮断し、壁や床からの輻射熱を抑える。
- 打ち水の活用:屋外エントランスや通路などに水を散布し、気化熱による自然冷却を図る。
- 気化熱を使った工夫:窓辺に濡れたタオルやシーツを掛けて風を通す、扇風機の前に濡れタオルや結露したペットボトルを置く、濡れた衣類や靴下を活用する、洗面器やバケツに水を張りタオルを浸して吊るすなど、蒸発による冷却効果を利用する。
- 環境指標の測定:温度計やWBGT計を用いて室温や湿度・暑さ指数を定期的に測定し、危険度を把握する。
3. 個人冷却対策
- 凍らせたペットボトルや保冷剤の活用:首・脇の下・太ももの付け根など太い血管部位を重点的に冷却する。
- 濡れタオルやハンカチ:水で濡らした素材を首筋や額にあて、扇風機と併用することで気化熱効果を促進する。
- 冷たいシャワーや足浴:事業所に更衣スペース等があれば、休憩時に体温リセットを目的に活用する。
- ファン付き作業服(空調服):衣服内に風を送り込み、発汗による蒸発冷却を助ける。深部体温上昇を抑制する効果が報告されており、屋外作業や高温作業現場で有効である。
4. 水分・塩分管理の徹底
- こまめな水分補給:喉の渇きを感じる前に少量ずつ補給させる。
- 経口補水液や塩分を含む飲料:大量の発汗時にはミネラルを含む飲料を併用し、脱水・電解質欠乏を防止する。
- 飲酒・過度のカフェインの制限:利尿作用により水分喪失が増大するため控えるよう指導する。
5. 作業内容と作業環境管理
- 作業時間帯の調整:気温が比較的低い早朝や夕方に重要度の高い作業を再設定する。
- 作業内容の見直し:重労働や負荷の高い作業を一時中止または作業強度を下げ、代替手段を検討する。
- 休憩場所の確保:可能な限り冷房や風通しの良い場所、または近隣公共施設(図書館など)を休憩場として整備する。
- 計画的休憩の実施:一定時間ごとに休憩を義務化し、環境測定値を踏まえて休憩間隔を調整する。
6. 健康管理と緊急対応策
- 巡視・体調確認:管理者や産業保健スタッフが声掛け・巡視を実施し、体調の変化に迅速に対応する。
- 症状発現時の対応:頭痛・めまい・吐き気・極度の倦怠感などの熱中症初期症状があれば、直ちに作業停止・冷却・水分補給を行わせる。
- 緊急事態への対応:意識障害や反応不良が見られた場合には、速やかに救急要請(119番)を行い、到着まで涼しい場所で経過観察と冷却継続を行う。
緊急対応まとめ(表)
項目 | 内容 |
---|---|
故障発生時の初動 | 管理責任者への報告、代替設備の確認・手配 |
室内環境改善 | 通風、遮光、打ち水、気化熱の工夫、室温・WBGT測定 |
個人冷却対策 | 凍結ボトル、濡れタオル、冷却休憩、ファン付き作業服 |
水分管理 | 経口補水液、こまめ補給 |
作業管理 | 作業時間・内容の見直し、休憩確保、計画的休憩 |
健康管理 | 巡視・初期症状対応・緊急救急対応 |