山火事で発生する煙は微小粒子状物質(PM2.5)や一酸化炭素、オゾンなどを含む有害物質を多く含んでいるため、労働者が長時間屋外で活動する場合には健康リスクが高まります。特に、長期的には慢性の呼吸器系の障害(慢性呼吸不全、COPD:chronic obstructive pulmonary disease)を引き起こすとされています。
慢性呼吸不全の発生機序
- 山火事の煙は、PM2.5など微小粒子状物質を大量に含み、これらが肺の奥深くまで侵入し、肺機能を徐々に低下させる恐れがあります。
- 長期間、または繰り返し煙を吸い込むことで、慢性的な肺炎症が持続し、肺胞や気道が損傷されます。この損傷が進行すると、肺の酸素交換能力が著しく低下し、慢性呼吸不全に至ることがあります。
慢性呼吸不全の症状
- 労作時や日常活動での息切れ(労作性呼吸困難)
- 慢性的な咳、痰の増加
- 疲労感や倦怠感の慢性化
- 重症化すると、酸素療法が必要になる場合もあります。
山火事対応労働者特有のリスク要因
- 山火事対応に伴う高強度の肉体労働や高温環境下での活動は、呼吸数を増加させ、粒子状物質の吸入量を増加させます。
- 適切な呼吸用保護具が使用されない場合や、正しく装着されていない場合、ばく露量が増大します。
- 山火事が長期化すると、労働者のばく露頻度が増し、慢性疾患リスクが高まります。
慢性呼吸不全の予防対策
産業保健の基本的な手順は作業環境管理、作業管理、健康管理の順で進めます。しかしながら突発事象である山火事に対し準備ができていないケースなどもあります。その場合には緊急避難的に個人用保護具の着用を優先的に対応を行います。
- (作業管理)適切な個人用呼吸用保護具(PPE; Personal Protective Equipment)の装着徹底
N95またはDS2の呼吸用保護具を正しく装着し、吸入するPM2.5を中心とした粒子状物質を最小限に抑える必要があります。火の燃えている近くまで行く労働者に対しては有機ガスが発生している可能性があり、その場合は取替式RL3規格(粒子捕集効率99.9%以上の性能をもつ、使い捨て防塵マスク。 Rは取替え式、Lはオイルミストへの対応を意味する。)のものを着用することも検討する。作業性を考えると取替式防じんマスクの着用するほうが良い場合もあります。特にもともと肺や心臓に異常がある方については優先的に着用します。また、ばく露量が多いと考えられる労働者や山火事の風下で活動する労働者などにも優先的に配布します。PPE着用については可能であればマスクフィットテスト(マスク面体の密閉度のチェック)を行います。また、フィットテストの有無にかかわらず、シールチェック(またはフィットチェックという、呼吸による陽圧をかけてマスクがしっかりと着用されているかチェック)は毎回実施するよう指導します。 - (作業環境管理)環境測定・ばく露時間・頻度の管理
粉じん計による測定はPM4の粒子の測定ですがPM2.5の測定値をある程度類推します。可能であれば粉じん計による測定を実施します。長期間にわたる連続ばく露を避け、交代勤務や休息期間を設け、労働者の肺への負担を軽減します。PM2.5については環境省が速報値を公開しています。 - (健康管理)定期的な健康診断・モニタリングの実施
肺機能検査や呼吸器症状の定期的な評価を実施し、早期に呼吸機能の低下や肺障害の兆候を発見し、速やかに治療介入を行います。 - 教育研修の強化
山火事煙のリスクや慢性呼吸不全の兆候について、労働者自身が認識し、早期に医療機関を受診できるよう教育を行います。 - 火災後の清掃作業における安全対策の徹底
火災後の残留粒子や灰を吸入することでも慢性的な肺障害を引き起こす可能性があるため、清掃作業時にも防護具を着用し、換気を確保します。
参考文献
Wildfire Smoke
Wild file Smoke guideline 2019 CDC
この夏、山火事の煙から身を守るための4つのステップ – PUBLIC HEALTH INSIDER